祐天寺 『大衆酒場 カラカゼ』
カジュアルな価格設定ながら、おもてなし力は超ハイレベル――逆風吹き荒ぶ飲食業界において目覚ましい躍進を遂げている、祐天寺の『大衆酒場 カラカゼ』。彼らのヒトトナリ、目指す先を聞きました。
「マニュアルなし。みんな対等。みんなが社長であり平社員なんです」
満席×ピークタイムでも注文しようと顔を上げたタイミングで「ご注文ですか?」と人懐っこい笑顔で駆け寄り、食べ終わったお皿は速やかに下げてくれる。ホールスタッフは注文内容をすぐに共有していて、誰におかわりを頼むとしてもいちいち説明するストレスがない。稀にケアレスミスがあっても、スタッフ全員でフォローする雰囲気に救われる。
(目の前で誰かがくどくど叱られている姿を見るのはいたたまれない…)
祐天寺駅東口から徒歩2分にある『大衆酒場 カラカゼ』は、2019年8月のオープンから3年経たずして、祐天寺を代表する人気店に。大衆酒場と謳っているだけあって客単価2000〜3000円というカジュアルさだが、その“おもてなし力”は高級リストランテや一流バーと同レベルのきめ細やかさだ。
本格焼酎(490円)や日本酒(400円〜)は種類も豊富。リーズナブルな価格設定で酒呑たちの制覇欲をそそる
鍋を振りながら笑顔で会話を続ける、店長の三本木慎吾さん(愛称はさんちゃん)。「どんなに忙しくても、雑な接客をしないよう心がけています」
立派なお髭が印象的な店長の三本木慎吾さんは、オープニングスタッフとして店の立ち上げに参加したことでこの仕事の奥深さに目覚め、大学を中退して本腰を入れることに決めたという。
「どんなに大きな会社の社長さんだろうが、フリーターだろうが、飲み屋においては職種とか役職とかを気にせず、趣味の話で盛り上がれますよね。そんな空間をクリエイティブできることってすごいことだなと。
じゃあどうしたらそんな空間を作れるかといっても正解はなくて、お客様によっても、日によっても、時間帯によっても変わってくる。右往左往しながら、よりよい答えを探し続けるのが楽しいんです」(三本木さん)
3年後の離職率は50%というほど、とかくきついといわれる飲食業界において、どうして『大衆酒場 カラカゼ』はスタッフみんなが楽しそうに働いているのだろうか?
「前提として、食べるでも作るでも接客でも、この仕事が“好き”ということは大事。ただ、好きから始まったとしても、お客様とコミュニケーションが取れて楽しいというところに辿り着く前に、洗い物に疲れてやめてしまう人が少なくないのが、この業界の問題点なんじゃないかと思いますね。実際、最初にキッチンに入った人と最初にホールに入った人とでは定着率が違うというデータもあるので、うちの店では早いうちからホールを経験してもらうようにしています」(三本木さん)
常連客でも飽きがこないよう、メニューは頻繁にリニューアル。入れ替わりの激しいラインナップのなかでも、不動のメニューとして君臨している、炒飯〜紅生姜〜(590円)。
生レモンサワー(450円)は強炭酸のキリリとした味。レモンが惜しみなく使われている。
スタッフの隈本拓磨さんは、客として訪れた際、そんな和気藹々とした店の雰囲気に魅せられたひとり。
「前職含め5年以上飲食に携わってきたんですが、ここで働くようになって、仕事への意識が大きく変わりましたね。前はただ仕事をやっていた、やらされていた感じだったんですが、いまは働くことがものすごく楽しいし、いずれは僕もオーナーになりたいという夢も出てきました。
というのも、うちの店はいい意味ですごく自由で対等なんです。みんなが社長でみんなが平社員という感じ。マニュアルもありません。だから、こうしたらいいかな?って思う接客は好きにやらせてもらえるし、レシピも採用してもらえる。もちろんまだまだ課題点だらけで失敗することもあるんですけど、そういう時も改まって反省会が開かれるというより、飲みながら少し話し合う感じでおしまい。それが余計響くというか、素直に頑張ろうって思えるんで」(隈本さん)
隈本拓磨さん(愛称はクマタク)は、風通しの良い職場で人間としてひと回り成長。「目指すのは、自分が来たくなるような店作り。それに尽きます」
そんな隈本さんと同じく、「客として店を訪れるたび、同業者として感心していました」と話すのは、スタッフの斎藤潤一さん。
「みんなキャラクターが面白いし、接客もいいお店だなと思っていました。それまではイタリアンや和食の店で働いていたんですが、前職をやめるタイミングで声をかけてもらって。いざ入社してみると、想像以上に働きやすくて驚きました(笑い)。お客様との距離が近いから楽しいし、お客様にこれが食べたいと言われた時に材料があれば応えられるので※、モチベーションが上がります」
(※キッチンに斎藤さんがいるか、時間的に完成するレシピかなど、条件はあります)
実は斎藤さん、飲食業界に入る前は舞台俳優として活躍していたという異色の経歴の持ち主でもある。
「僕はもともとお客様を楽しませたいというのが根っこにあって、飲食もエンタメだと思ってこの世界に入ったんです。キャパ30人のカラカゼは、キャパ30人の劇場。料理やトークでどうやったらお客様の心が動かせるかを考えています」(斎藤さん)
「最高級な食材を使ったら美味しくなるのは当たり前。この価格でこのクオリティ?という驚きを提供するのもエンタメだと思う」と語る、斎藤潤一さん(愛称はじゅんじゅん)。
鮮度抜群の刺身盛り合わせ4点(1500円)は店の看板メニュー(写真は2点。ネタはその時々で変更)。
仕事へかける想いは三者三様。それを束ねているのは、社長の網 雄太郎さんだ。表裏のないオープンな性格で、一度決めたらブレないメンタルの強さはスタッフのモチベーションをグイグイと引き上げている。
29才で独立した、若きオーナーシェフ・網 雄太郎さん(愛称はあみくん)。営業方針など大筋を除き、細かい接客スタイルやメニュー内容などは社員に任せられるようになった。
「もともとは誰かに何かを任せることがすごく苦手で、オープンからしばらくはずっと休みなし。でも、自分ひとりで回そうとすると、どうしても限界が出てくるんですよね。会社を成長させるためには他の人の手を借りること、それも全部お願いすることが大切だということに気づいて、いまはあえてお店に顔を出さないようにもしています。この2年半で、スタッフを“心配”するのではなく“信頼”しようと考えられるようになったのは、僕にとっても大きな成長でした」(網さん)
今後の展望は?と尋ねると、「2軒目の出店を計画中」という頼もしい答えが。
「メニュー内容でも価格設定でも接客でも、どこにも負けないものを提供するつもりです。と同時に、これからは社員のことももっと大切にしていきたいですね。いくらこの仕事が楽しくても、手取り20万円を切るとかだと、さすがに結婚や子育てに躊躇すると思うんです。だから、ちゃんと家族を養えるくらいの給与があって、ちゃんと休みもとれるような会社組織を作って、社員とその家族を安心させたい。“飲食でも食っていけるように”というと変ですが、休みがないとか薄給とか、ブラックなイメージをもたれやすい飲食業界の働き方にも風穴を開けられたら」(網さん)
カラカゼ’s ヒトトナリ
常連客にも一見客にもフレンドリーな接客が魅力。ヤンチャそうな見た目とは裏腹(?)、真面目でアツイものを秘めているスタッフ多し。
カラカゼ’s オトナリ
ABURA BAR TOKYO、Tacos & bar LOOP、VIZZ 祐天寺店etc…
「同じ祐天寺にある、雰囲気のいいバーによく出没してます」(斎藤さん)
Information
大衆酒場 カラカゼ
ADDRESS 東京都目黒区祐天寺1-23-20シティハイツ第2祐天寺102
TEL 03-6712-2535
OPENING HOURS 18:00〜25:00
CLOSED 年末年始
RESERVATION 可
Instagram @karakazeyutenji
photo & text & movie:otonari編集部
(2022/4/14現在)
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