都立大学『大衆酒場 はんろく』
学芸大学の『大衆酒場 アオギリ』の系列店として、「安い! 早い! 美味い!」をモットーに、2018年4月に開店した、都立大学の『大衆酒場 はんろく』。居酒屋不毛地帯でもファンを獲得し続ける、彼らの“おもてなし”の原動力を探ります。
「好きなことを働くに変えたほうが絶対にいい」
チャージ料なし、1品390円からというリーズナブルな価格設定、喫煙可能、19:30までハイボール100円のハッピーアワー……
酒呑み達をくすぐるポイントはたくさんあれど、大衆居酒屋のレベルを超える料理のクオリティーと豊富な品揃え、そして細部にまで行き届いた清潔感は、リピーターはもちろん、初めて訪れた客の心も虜にしてしまう。
都立大学駅から徒歩3分の『大衆酒場 はんろく』は、学芸大学の超人気店『大衆酒場 アオギリ』の姉妹店として2018年4月にオープン。ファミリー層が多く“居酒屋不毛地帯”と呼ばれるこの地で、着実にファンをつけ、結果を残してきた。
壁一面に貼られた手書きのお品書き。常時70種類以上のメニューはどんどん刷新されていく。週3で通うリピーターも飽きさせない。
「小さい看板は出しているんですが、建物の奥にあるせいか、近隣に住んでいるかたにも1年気づかれなかったくらい…(笑い)。でもこのさりげない感じも、都立大のかたがたに受け入れていただいている理由のひとつかもしれません」(店長の工藤尊子さん)
工藤さんはもともとアパレル出身。焼き鳥店で働いていた友人から人手が足りないからと誘われ、お手伝いのつもりがすっかり飲食の楽しさに目覚めてしまったのだとか。
可愛らしい笑顔にハスキーボイスのギャップが魅力の、店長の工藤尊子さん(愛称はたかちゃん)。「仕事を覚えることより、人と仲良くなる方が大変。それを乗り越えたら仕事もしやすくなるので、まずはスタッフ間でいいコミュニケーションを取れるよう意識しています」。
コールドプレスジューサーで、丁寧に絞られた果汁がフレッシュ。生搾りかんきつサワー(600円)。
飲食という仕事の魅力は?と尋ねると、「嘘がないこと」ときっぱり。
「同じ接客でも、アパレルの場合はお客様に似合ってないなって私が感じていても、可愛いって言わなければいけないことがあって、それがすごく嫌だったんですよ。飲食なら美味しいと思っている料理やお酒を、本心からおすすめできているのが心地いいんです。
仕事って、生活の中でいちばん長い時間を過ごしていると思うんです。なんだったら家族よりも一緒にいる時間が長かったりする。だからその時間を自分が楽しめないと、休みも楽しくなくなっちゃう。仕事が楽しいかどうかって、めちゃくちゃ大事なことだと思うんです」(工藤さん)
それもあって、工藤さんはまず楽しんで働くことの大切をスタッフにも伝えているそう。
「入ったばかりのアルバイトの子はガチガチですから、まず笑わせるところから。『何したらいいですか』って聞かれたら、もちろん洗い物してとかあそこのお皿を下げてとか、忙しい時は仕事をお願いするんですけど、余裕がある時は『ホールでお客さんと話していていいよ』と伝えています。あと『笑顔を忘れないようにね』って。飲食の接客の楽しさを知って、楽しく帰ってほしいので」(工藤さん)
料理長の古山和恵さん(愛称はぼんちゃん)は、兄も料理人。「小学生の頃から、外食で美味しかった料理があると、兄妹で競って自宅で再現していました」。
料理長の古山和恵さんは、もともと出版業界にいたが、友人からカフェを手伝ってと言われたことがきっかけで料理の楽しさに目覚め、本格的に料理人へと転身したそう。
「とくに繊細さを求められる和食は自分に向いている実感があって、どんどんハマっていきました。そうしていくつか和食系のお店で働いていたんですが、日本料理の大先輩からいろいろと教えていただいたことが心に残ってますね」(古山さん)
それは「一口目で美味しいと感じるものではなく、全部を食べ切った後に、あぁ美味しかったなと思える、余韻を残す料理を目指しなさい」ということ。
「もちろんお酒と一緒にいただく料理って、最初のインパクトが大事なんですけど、それはそれとして、料理の余韻や奥深さは大事にしていきたいと思っています」(古山さん)
九州から毎日直送される新鮮な魚が自慢。とくに“必食”と言われる、刺身盛り合わせ(写真は、さわら、かつお、平目の昆布締めの3点盛り1200円)。
古山さんが手がけた料理は、どれも繊細でキレがいい。刺身の切り口はピンピンに角が立っていて、腕の良さが一目瞭然! 盛りも良く、ツマや薬味はたっぷり。
「つい、自分だったら嬉しいだろうなというのを基準に盛り付けてしまうので、ひとりだと量が多すぎる説もあるんですけど…そこはおっしゃっていただけたら応じます(笑い)」(古山さん)
フロアもキッチンも、ダクトを毎日取り外して清掃。「ここまで厨房が清潔なところもなかなかない。ここで働くことにした理由のひとつです」(古山さん)。
「満席の居酒屋が持っている活気やぬくもりが大好き。うちが満席になるとたまらなく嬉しいし、幸せだなって思う」と話すスタッフの川端大輔さん。
スタッフの川端大輔さんも、これまでフレンチビストロなど、洋食系の飲食店で培ったスキルを存分に活かしている。
「まかないタイムは、試作をチェックしてもらう場でもあります。そうしてメニューに採用してもらえると、嬉しいんですよね。メニュー以外にも、今度こうすればいいんじゃない?っていうアイディアを持ち寄ると、すぐ形になっていくスピード感が気持ちいいし、それはうちならではだな、と思います。
もともと食べることと飲むことが好きなので、休みの日も遠出しても飲み歩いたりします。やっぱり、“好き”を続けられることが、仕事でも人生でも大事なことなんじゃないですかね」(川端さん)
川端さんが考案した、箸が止まらない悪魔的一品。チンジャオせせり(650円)。
1つのテーブルに全員が仲良く座って、和気藹々のまかないタイム。試作については「これあともう一歩、パンチがあるといいね」などの冷静なダメ出しも。
“好き”を共通項に集まったメンバーだが、お互いのキャラクターを尊重し合う姿は、なんとなく家族のような雰囲気も漂わせる。
思わず、肩を組んでの集合写真を依頼すると、「なにこれ、恥ずかしい!」と爆笑しながら写真に収まってくれた。
「コロナ禍で休業している期間、こんなに休むことも初めてだったので、みんなに会えなくて何をしていいかわからなくなりました(苦笑)。
家でずっと会話もせずご飯を食べていると鬱々してきて、外食がものすごく恋しかった。きっとひとり暮らしの人とか、毎日コンビニ弁当で済ませていたらもっと嫌だったと思います。
1杯だけでもいいし、1品だけでもよくて。私たちのお店が、あそこにいけば誰かいるかなって思い出していただける、心の拠りどころになれればいいなと思っています」(工藤さん)
はんろく’s ヒトトナリ
誰かのテンションが低い時に即座に見抜いてフォローする人、絶対的な安心感をもたらす人、新しい風を入れる人、周囲を明るくするムードメーカー…それぞれが役割を担い、家族のような一体感。その全てをでっかく見守る母親役は工藤さんなのは間違いない。
はんろく’s オトナリ
ひとひら、鳥せん
「和食系、おばんざいのお店、焼き鳥屋は好きです。スタッフのかたたちとも仲がいいので、よく出没してます」(工藤さん)
Information
大衆酒場 はんろく
ADDRESS 東京都目黒区平町1-25-16 クサムラコーポ1階奥
TEL 03-6421-1032
OPENING HOURS 17:30〜24:30
CLOSED 無休(たまに勉強会のため休むこともあります)
RESERVATION 可(当日以外の予約電話は17:00まで)
Instagram @hanroku_
photo & text & movie:otonari編集部
(2022/4/14現在)
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