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スズノブ

都立大学『スズノブ』



“お米博士”としてメディアでも活躍する、五ツ星お米マイスター・西島豊造さんが営む精米店『スズノブ』は、都立大学のランドマーク的存在。消費者からも生産者からも絶大な支持を集めてきた西島さんが、いま、いちばん訴えたいこととは――


お米を食べるのは義務じゃない。“美味しいから”にしなくちゃ


扱うお米は、常時66種類と日本屈指。産地別にずらりと並べられ、手前は低くて奥が高い“棚田”のよう。「店内撮影OK」と札が立つほど、全国から訪れたお米好きにとって聖地となっている。ファンのいちばんのお目当てはもちろん“お米博士”こと西島豊造さんだ。


日本を代表する、五ツ星お米マイスター・西島豊造さん。相談すればソムリエのように好みのお米を提案してくれるほか、店内にはお米別の「もっちり・あっさり・硬い・柔らかい」という食味チャートがあるので参考にしたい(スズノブホームページにも掲載されています)。



「いまの日本人の主食はお米じゃないんです。主食はパン。で、麺も食べるでしょ。だからお米を食べなきゃって“義務”に思わなくていい。“美味しいから食べる”でいいんです。ただ、お米が美味しいってことが、みんなに伝わっていないんですよね。どう美味しいか、どう食べたらいいか。しかも美味しいっていう基準は人それぞれある。ソムリエがワインを提供するように、米屋もお客さんの好みを探りながら繊細に提案していかなくちゃ」(西島さん・以下「」同)


のっけから驚きの発言! 


西島さんの言葉通り、国民1人が1年間に食べているお米は、1962年度の118.3kgをピークに年々減少していて、2020年度は50.7kgと約半分の消費量になっている(農林水産省「食糧需給表」より)。

アイデンティティのように思っていた「日本人は米」が過去の話とは……。


「お米や和食は日本人にとって大事なものだし、変えてはいけない部分もあるけど、いつまでも古い考えで“こうあるべき”ってしがみつくのとは違うと思うんですよ。異業種からでもいいことはバンバン取り入れていかないと。

僕はソムリエから接客ヒントを得たように、店内のレイアウトはコンビニや量販店を参考にしています。定期的に配置替えを行うのは“あのお米どこかな”って、名前を覚えてもらうため。親父は『売れるものを前に置け』って言っていたけど、売れる商品を奥に置いた方がお客さんは店内を回遊してくれるんです」


医師から『ダイエットしてください』と言われ、2年間で30kg以上減量。「腕もしびれているんだけど、米俵を担ぎすぎた職業病だって。いろいろあるけどこの体と付き合っていかなきゃ(苦笑)」



祖父・鈴木延太郎(のぶたろう)さんが興した米屋の三代目。当初は家業を継ぐ気はなく、環境保全の道に進むべく、北里大学獣医畜産学部畜産土木工学科に進学した。その後、北海道農業近代化技術研究センターでコンサルタントを約2年半務め、現職に。


「東京で生まれたからこそ自然環境、田舎が欲しかったの。動物が好きだったので、動物と共存できる環境を学ぼうと思ったんです。

そこで得た土質力学や水理学、土木工学や測量・設計などが頭に入っているから、地形を見れば、水脈や昔どんなことがあった土地かがわかる。

以前『どんなに頑張っても良いお米が採れないから見てくれ』と言われて視察したところは、川を挟んだ左右の山の位置がずれていたので、ピンときました。大昔に土砂崩れがあって、土砂で埋まったところをそのまま畑にしたから、一般の土壌以上に土が痩せていたんです。でも逆のケースもあって、土地のポテンシャルからどういう品種がいいか、どんな農法が向いているかも見えてくるんですよ」


かつてバラエティー番組を沸かせた、持ち上げたお米をグラム数までぴたりと当てられる鋭敏な手の感覚の持ち主。手の感覚でお米の水分量をチェックする。「いまは腕が痺れてグラム数までは難しいんだけど。乾燥しているものは、軽くもむだけでざらざらしてくるんです」



研究者目線で、地元の農家でも知らない地質や水脈を理解する。しかも、躊躇なく土を口に含み、味わう。


「土を食べるのは、目で見ただけではわからないから。渋いか、苦いか、甘いかで土の健康状態がわかるんです。苦い渋いは不健康。ザラザラするのは火山灰とか砂が多い。根っこを感じる場合は土に微生物がいないから。こうやってなんでも突き詰めたくなっちゃうのは、僕がオタク気質だからだと思う(笑い)」


店内では5台の精米器がフル稼働。注文を受けたら好みの分付きに精米してくれる。



日常の業務にプラスして、マスコミや講演会でも引っ張りだこ。ブランド米作りの指導のため、長年奔走してきた。誰が相手でも忖度せずズバズバ切り込むため、ついたあだ名は「エイリアン」。


「外からやってきて、耳の痛いことをはっきり言うからね。“鬼”って言われたこともあるよ(笑い)。そもそも見込みのない人には助言はしないし、できる人がやらないときに何故?って思っちゃうの。米作を盛り上げたいなら、いまの状況を変えたいなら、いま、本気出してやろうよって言っているだけなんだけどなあ…。

アイディアはバンバン出すけど続かないとか、コツコツ続けるけど自分から全然意見を出さないといった県民性の違いもあるし、農家の高齢化、行政担当者の引き継ぎ問題など…まだまだ課題は山積みです(苦笑)」


取材中の小さな来客。ちなみに小鳥用の小米(割米・砕米)も販売している(2kg 480円)。



「僕は農閑期に出稼ぎしなくてもいいように、6次産業(加工品)の仕事を作りたいんです。そのためにも独自化、ブランド化は必要不可欠だし、若い世代を町に呼ぶことも大切になる。しかも米作りは1年に1回しかチャンスがない。それでいて結果がついてこないと国や県からの予算がおりない。だから1回1回が真剣勝負なの」


いち米屋としては、いささか大きすぎる使命を背負っているようにも思えるが、それには過去の苦い思い出が関係しているそう。


ブランドごとにキャラクターを作ったり、オリジナルポロシャツを作ったり。すべては「お米への興味をもってもらうきっかけづくり」と西島さん。



「僕自身、これまで多忙だったのが急に足止めされたこともあって、コロナ禍で体調を崩してしまったんです。病気してみてわかったのは、元気な時って、何事もつい先延ばしにしちゃうってこと。どれだけ続けられるかわからないけど、あと何ができるのかなって考えるんです。


でもそれ以上に、昔の失敗を繰り返したくないって気持ちが強いかな。


いまから10年前、恵まれた土地ではない、とある農家さんが、ものすごくおいしい『ゆめぴりか』を作ったことがあって。どこにでもあるような地質の田んぼだったから、こりゃほかのみんなもできるはずだ、光になるぞって思った矢先に、そのかたが急逝してしまった。後で聞こうと思っていたから何も記録が残っていなくて、いまだに何をどうしたらあれだけいいお米ができたかわかっていないんです。

もちろん失敗例も記録に残さないと、のちの農家さんの“無駄足”になってしまう。僕が口を酸っぱくして記録を残せと言っているのはこのためなんです」


各メーカーの炊飯器や土鍋に混じり、フィギュア、プラレール、パズル、ステップマシーン、パソコン…など、仕事と趣味のものがぎっしり。「米とか環境保全など農業系の本と一緒に鉄道模型の本があるのは、ちょっと変わってるかもね(笑い)」



では、一般消費者の私たちは、お米をどう選んでいくのがいいのだろうか。


「日本列島って東と西に長く、海から山まであってバラエティー豊か。当然採れる食材だって違いますよね。カレーはまだしも、特に寿司の場合は、合う・合わないっていうお米が明確にあるんです。基本は、地元同士って考えればいいんですよ。山形の食材には山形のお米を、北海道の食材には北海道のお米が合います。いまは地方の美味しい食材をお取り寄せする人も多いじゃないですか。お米もそうやって選べば美味しいし、地域活性にも寄与できる。ウィンウィンでしょ?」


北海道生まれのフクと兵庫生まれのリリと過ごすひとときがなによりの癒し(写真はリリ)。



『スズノブ』ホームページには、取り扱う品種の詳細はもちろん、研ぎ方や浸水時間、蒸らし方、ほぐし方といった、おいしくお米を食べるための基礎知識も惜しみなく掲載。お弁当や卵かけごはん、チャーハン、丼…など、用途(献立)別のおすすめ米も販売されていて、そんなに味が違うものなの?と驚くばかり…。


「子供がご飯をなぜ残すかというと、単純に味が好みじゃないから。家では食べるのにお弁当だと残すというのは、蓋を閉めるタイミングが早すぎてお弁当箱にニオイがこもってしまったか、冷めると美味しさを感じにくいお米か。改善策は必ずあるんです。小学校の低学年で味覚は決まってしまうから、好きな味のお米を知る、選ぶ、食べるチャンスを広げてあげたいんですよね。

もし味の好みがわからなければ、好きなおかずを教えてください。用途を教えてください。それに合うお米を提案するのが、僕の仕事だから」



スズノブ’s ヒトトナリ

繊細なのに豪胆。しっかり根を張った稲のごとく、信念に向かってまっすぐ突き進む姿が印象的。オンモードはちょっぴり早口でロジカルに解説する“博士”っぽさ満載ながら、オフモードになると愛猫にでれでれ。ギャップ萌え、なお方です。



Information


スズノブ


ADDRESS 東京都目黒区中根2-1-15

TEL 03-3717-5059

OPENING HOURS 9:30〜18:30(売り切れ次第終了)

CLOSED 日・祝

RESERVATION 可

HP https://www.suzunobu.com/

Instagram @toyozou_nishijima


Photo:爲永(Instagram @naokitamenaga

Text:ツジモトユキジ

Movie:スギウラユウ

Direction : アサイシンイチロウ


(2022/7/1現在)

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