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御菓子所 ちもと

都立大学『御菓子所 ちもと』


都立大学で知らぬ人はいないほどの有名和菓子店『御菓子所 ちもと』は、毎日売り切れてしまう八雲もちや、開店前から大行列を作るかき氷、季節の和菓子として熱烈ファンの多い桜餅や栗蒸し羊羹など、看板メニューが目白押し。この地で57年愛されてきた理由を、店主のヒトトナリとともにご紹介します。


「奇跡の1品を、深く掘り下げるのが自分の役割」


調理場にて、八雲もちと草だんごを作っている職人技を見せていただいている最中、


「もちが柔らかいから、竹皮できれいに包めるようになるまで結構大変だよ。マスターするのに? 1日だね」

「あんこを絡めながら丸くするのはね、これはさすがに難しいよ? 3日かかるもん」


嘘か誠か、飄々とした江戸前口調で(中村勘三郎さん、もしくは高田純次さん味あり)われわれ取材スタッフを笑わせる。声の主は、都立大学が誇る名店『御菓子所 ちもと』二代目店主の石原謙さんだ。


「竹皮には硬い部分と柔らかい部分があって、硬い方はピシッと形が決まりやすいけど、柔らかい方は難しい」と話す、代表の石原謙さん。



1965年に父・石原勇さんが創業。

この地にしたのは、勇さんが『ちもと』軽井沢店で働いていた頃から、別荘族の本宅が多い八雲に狙いを定めていたからだそう。そしてその地名からとった八雲もちは、本店のちもともちに負けないオリジナル和菓子を、という思いから生まれたもの。


ふにゃっ、くたっ…まるで新生児を抱っこしたときのような、ドキドキする柔らかさ。口に入れるとふわりと溶け、黒糖の上品な甘さと、香ばしいカシューナッツの相性が絶妙! お茶だけでなくコーヒーにも合う。八雲もち(1個216円)。

八雲もちは、1日で平均1000個、繁忙期は2500〜3000個も出る。売り切れることも多いので、早めの時間に来店するのがおすすめ。


きっかけは、勇さんが中華料理を食べたときに、和菓子にはまず使われないカシューナッツを練り込もうとひらめいたことから。ベースの求肥生地には黒糖と泡立てた卵白と寒天を加え、マショマロのようにふわりと溶けてしまう、“唯一無二”の食感と風味を生み出した。


瞬く間に評判を集めた八雲もちをはじめ、草だんごやかき氷、栗蒸し羊羹、ちもと饅頭…など、人気メニューが次々と誕生し、『御菓子所 ちもと』は押しも押されぬ名店となっていった。

石原さんは幼少期から配達などを手伝っていたものの、二代目を継げというプレッシャーは一切受けることなく、自由な学生生活を謳歌していたそう。「だからあの日の親父の言葉は忘れられなかった」と石原さん。


「僕らの時代って、小学校から中学校に上がるときに腕時計を買ってもらう習慣があったんです。私服から制服に変わって、革靴履いて、腕時計をして中学校に行く。なんか大人になったみたいな感じになれるんですよ。

で、ちょうどそのために、親父が銀座の和光で時計を買ってくれたことがあって。帰り道に『謙、天丼食べるか?』って、銀座特有の、ビルとビルの間の細い路地をずんずん入っていったの。ここがもうどこだかわかんないくらい奥に行くと、6席か7席しかないコの字型のカウンターがある小さい店に入って、そこではおばちゃん2人で天丼を作っていたんです。メニューは天丼だけ。そこで親父が言ったんです。『謙、商売はこれでいいんだぞ』って。

もう、目から鱗。辺鄙な場所で、売れるものが1アイテムしかなくたっていいんだって。美味しいものが1個あればいい。1個あること自体が奇跡。がつんとやられた気がしました」(石原さん。以下「」内同じ)


手の指先であんこをこそげつつ、だんごを包みながらまん丸く成形。ものの数秒でできるのはさすがの職人技。

みずみずしくて舌触りの良いあんこは、甘さ控えめでとても上品。できたてはとくに柔らかく、一口噛んだ瞬間によもぎの香りがぶわっと広がる。草だんご(1串184円)。



そこで二代目を継ぐ覚悟が決まったのだそう。


「親父は何も言わない人で、俺がどれだけ遊んでようが何しようが、全く怒らない。好きにすればっていう感じで、とにかく俺に背中だけを見せ続けてくれた。だからその一言は強烈に覚えてますよね。すげえなって。なんとなく継ぐんだろうなと漠然と思っていたけど、俺もこの世界で一回真剣に生きていかなきゃダメだなって。

だから俺もそれを見習って、子供たちを怒ったことないですよ。店の職人さんにもうるさく言いません。だからみんなやりやすいみたいだね(笑い)」


全てが手作業。職人たちは石原さんの冗談にも慣れたもので、笑顔を見せながらも手は止めない。“老舗”にあぐらをかかず、肩肘も張らず、カジュアルで風通しのいい雰囲気。

毎年これを楽しみに来店する客も多い、季節の和菓子。立春から桜が散る4月上旬まで販売される、桜餅(205円)。



店の内装は、石原さんへと代替えをした1984年に大きくイメージチェンジ。“本物”をコンセプトに、コンクリートやガラス、鉄、ステンレス、大理石、木…と、さまざまな素材が調和する、シンプルで飽きのこないモダンテイストに変貌を遂げた。


「手がけてくれた建築家の先生も妥協しない人で、Cassinaのレザーチェアにしましょうって言われて、びっくりしたこともある(笑い)。でも本物って、ちょっとやそっとのことじゃ壊れないし、年月を経ても全然古くならない。うちの目指す和菓子も本物であり続けたいからぴったりだったんです」


1984年に作られたとは思えないモダンな店内。BGMはつくばいを流れる水の音のみ。



とはいえ、代替わりをしたのはまだ若き20代。父を超えたいとか、自分らしさを表現したいといった欲望はなかったのだろうか。


「なかったですね。親父が作った味が本当に美味いと思ったし、俺ががちゃがちゃこねくり回すのは違うなって。

57年前に作った味だけど、いまも美味しいでしょ? 年寄りにはわかるけど若い人にわからない味、なんてないんですよ。子供だろうが美味しいものは絶対わかる。そして美味しかったら、コロナだろうがなんだろうが、必ずお客様は来てくれる。

だったら美味しい1個をまじめに続けていかなきゃ。俺がやるべきことは、いまあるものをより掘り下げて、大事に追求していくことだと思っています」


真剣な眼差しでそう語る石原さんに、半世紀以上という長きに渡り、ブレずにこの味を守ってこられた理由を尋ねた。


「八雲という土地は、正直、商売は難しいと言われているんです。それはみなさん本物を知っているから。手を抜くとすぐ見抜かれちゃうの。じーっと見て、違うと思ったら文句も言わずそっといなくなる。だから絶対ごまかしがきかないんです。ここに住むお客様が手抜きするなよ、ブレるなよって、うちの味を守ってくれたと言っても過言じゃないですね」


あんこに使う小豆も、季節ごとに日本各地の取引先から少量を取り寄せて吟味し、いちばん美味しいと思うものを使用。「生産者がいい人じゃないと素材って美味しくならない。そういう人を探すのが自分の仕事」と石原さん。



今後の展望を尋ねると――


「お店はずっとこのままでよくて、むしろ、いま扱っている和菓子の種類、一般的には少ない方なんだけど、もっと減らしてもいいと思ってるんです。

夏季に喫茶席で出していたかき氷も、当分休もうかなと。大変ありがたいことにとても人気をいただいてきたし、自信のあるメニューではあるんですけど、絞っていく方向性の中ではいいタイミングかなと」


そして最後はやっぱり我々をケムに巻いた。


「…ま、修業中の息子が帰ってきたら、俺はやめますよ。だってやだよ、一緒にやりたくないもん(笑い)。若い子らでやってくれたらいい。そしたら俺は5坪くらいの小さい店でもやって、のんびり暮らします(笑い)」



御菓子所 ちもと’s ヒトトナリ

朝4時から和菓子を作り、配達に出て、接客もし、経理も営業もこなす。気さくで陽気で親しみやすい“薄皮”の中には、本物を貫き通してきた男の色気がぎっしり。



御菓子所 ちもと’s オトナリ

八雲うえず、ちゃんこ芝松 八雲店、鶏慶、ひろ鮨、忠弥

「ちゃんと美味しくて、値段がそれなりで、雰囲気もいいところ。結局、大将がしっかりしてるお店が好きなんだよね」(石原さん)


Information

御菓子所 ちもと


ADDRESS 東京都目黒区八雲1-4-6

TEL 03-3718-4643

OPENING HOURS 10:00〜16:00(喫茶は休止中)

CLOSED 木曜、月3回水曜

RESERVATION 可

HP https://chimoto-yagumomochi.com/


photo & text & movie:otonari編集部


(2022/4/14現在)


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