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PEDIBUS JAMBUS

祐天寺『PEDIBUS JAMBUS(ペディビュス ジャンビュス)』



いつも行列ができている祐天寺の『PEDIBUS JAMBUS(ペディビュス ジャンビュス)』は、地元客だけでなく、遠方からはるばる訪れるファンも多数。“フランスの食堂”をイメージしたというお店は、メニューはもちろん、食器や接客、内装…と、細部にまでこだわりと愛情がたっぷり。ここが都内だということを忘れるほど、ヨーロッパを旅している気分になれる同店の魅力を探ります。


いくつになっても、自分だけの人生の夢を持っていたい


「人生でいちばんおいしいスープ」

「どこ見渡しても絵本の中みたいにかわいい」

「優しいけど芯のある店主のお姉さんがかっこいい」

「2時間行列しても価値のある店」


そんな熱烈なファンを持つ『PEDIBUS JAMBUS』をたったひとりで切り盛りしているのが、店主の佐伯奈緒美さんだ。


「多くの人に来ていただけることは本当にありがたいし、SNSで広めていただくこともありがたいんですけど、イメージだけで期待されちゃうとな…っていう不安は正直あります(苦笑)。

ワンオペなので忙しいとキッチンからオーダーを取ったり、お会計ちょうどならそこ置いといて、みたいな感じになったりしますし。雑になって申し訳ないけど、こういうスタイルのお店なんだなってお客さんに慣れてもらうしかなくて。1回来て、食べて、納得してもらったらまた来てほしいな」


そう話す佐伯さんは、とてもオープンマインドでフレンドリー。さっぱりと飾らない口調で、あっという間に相手との心の距離を縮めてしまう。


店主の佐伯奈緒美さんは、並外れた行動力と卓越したセンスで、料理人としてのキャリアを積み重ねてきた。



「料理人を目指そうと思ったのは、17才の時。高3で周りの友達が大学受験に追われているなかで、私には大学という選択肢がなくて。じゃあどうしようかと思っていた頃に、NYで屋台をやっている日本人のドキュメンタリーをテレビで見たんです。あ、私も海外で屋台をやろう!って閃いて。別に英語が得意なわけでも、料理が得意なわけでもなかったんですけど、まあ、若者らしい短絡的な発想です(笑い)」


両親を説得し、高校卒業後は調理師学校へ進学。同時に銀座のフレンチレストランに見習いとして就職した。

店の外にあるメニューは手書き。ざざっと書いたタッチにもセンスが。



「フレンチにしたのは、当時、どの和食店でも女性を募集していなかったからなんです。海外で勝負するなら、日本文化を伝える和食だろうと思っていたので、和食をやりたいという気持ちがありながら、フレンチレストランで3年働いていました。

で、ようやくお金も貯まったので、イギリス行きのチケットを見せながらシェフに『イギリスに行くんで辞めさせてください』って言ったら、なんとか辞めることはできたんですけど『なんでフランスじゃないんだ!』と怒られましたね(笑い)」


ミモザのリースがさりげなく。南仏では冬から春を告げる花として愛されている。

テーブルには季節の生花でおもてなし(別のテーブルにはさくらんぼも)。店内の至る所が絵になる。


「消去法でフレンチの世界に入ってしまったので、自分に本当に向いている料理が何かを確かめたかった」と佐伯さん。イギリスにホームステイしながら、1年間かけてヨーロッパ中を食べ歩いた結果、やはりフレンチだと確信したのだそう。


「私が好きなのは、料理の後ろにある文化とか歴史とかの奥深さだって実感したんです。もちろんそれはフレンチに限った話ではないけれど、フレンチは技法として面白かったし、これまで身につけた技術が“共通言語”となって私のやりたいことを助けてくれました。現地で暮らしながら、そして思い立ったら仕事をさせてもらいながら、食文化を学べる、体で味わえる感覚があったんです」


さまざまな三つ星レストランを食べ歩いたり、実際にいくつかのフランスの星付きレストランで働いたり、日本のフォーシーズンスホテルでも10年以上働いたのち、佐伯さんが辿り着いたのは、レストランでもビストロでもカフェでもない、現在の“食堂”スタイルだった。



佐伯さんが好きなものだけで揃えた店内。アンティークのものが多く、SNSでは「ジブリっぽい」「全部がかわいすぎる」と話題に。


「お金を出して設備やスタッフを揃えればきちんとしたレストランを作れるけれど、もっと気軽に、フランスの食文化に気軽に触れてほしいなと思ったんです。フランスのお母さんが出すような家庭料理だったら、赤ちゃん連れでもおじいさんでも男の子1人でも気軽に来られるかなって。

それに旅をしてると疲れてあまり食べられない時ってあるじゃないですか。でもスープだったら食べれる。スープ1杯でお腹も心も満たせるお店を作れたらいいなと思いました」



看板メニューである、本日のスープとパン1200円。スープの種類は旬の野菜ほかに、かぼちゃとさつまいもは定番でスタンバイ(写真は空豆)。セットでついてくるグリルチーズパンも大人気。小サイズ800円もある。

今日のオススメ1400円。グリルパン付き。写真は根強い人気の、塩豚キャベツの煮込み。ほろほろジューシーな塊肉と、とろっシャキッとした野菜の食感のコントラストが楽しい。シンプルな味付けで旨味たっぷり、最後の一滴までパンで拭って食べたい。



通し営業にして、ちょっと微妙な時間にお腹が空いてしまった人にも入ってもらいやすくした。メニューは、スープ、煮込み、キッシュ、サンドイッチなど“1品完結型”をイメージ。デザートやワインなどもあるが、日本の定食屋で親子丼やカレーライスを頼むような感覚だ。


「伝統的な料理かといわれるとそうではないけれど、フランスとかアメリカとか、海外の人達が来て『これ、うちのおばあちゃんの味がする』って言ってくれると、いちばんぐっときます。『私がやっていることは間違ってないんだ』って確認できる瞬間でもあります」



もともと旅が大好きで、海外の食文化も大好き。ミステリーハンター(TBS『日立 世界ふしぎ発見!』の現地リポーター)にも憧れていたそう。「海外に行くと落ち着く」という言葉に納得!



ただ、もともと飲食店として作られていない構造なので、キッチンには小さい二口コンロとオーブン1台だけ。料理人仲間からは「よくそんな設備で料理できるね」と驚かれるという。


「最初は快適に思わなくても、とりあえずやってみる。そうすると何とかなっちゃうんですよ。

思えばこういうことの繰り返しでしたね(笑い)。

(同じくフレンチの料理人である)主人と新婚旅行で渡仏した時はフランス中のレストランを5か月くらい食べ歩いていたんですけど、最後のレストランでクレジットカードが切れなくなって、『私は日本で使いすぎた分を急いで稼ぐから、あなたはフランスで働いてきて』と主人を置いて、帰国したこともありました(笑い)」


笑顔で語る、強烈なエピソード!



タルトフロマージュブラン650円。チーズタルトの上にフロマージュ(フレッシュチーズ)、季節のフルーツ(この日はフレッシュいちじく)をのせて。満腹でもするするいただける神がかったデザート。

自家製レモネード650円。国産の減農薬レモンを使用、皮ごといただけるのが特徴。季節によって旬のフルーツがプラスされる(この日はパッションフルーツ)。

アルザス滞在中(’02年)、フォアグラを使った料理コンテンストで銀賞を取った際は、フランス最古の地方紙『デルニエール・ルーベル・ダルザス』でも取り上げられた。「コンテスト会場のリヨンまで、当時働いていたレストランのシェフが車で片道5時間かけて連れていってくれて。感謝しかないですね」

「憧れの人」と語る絵本作家ターシャ・テューダーさんの本をはじめ、店内には絵本やおもちゃがあちこちに配置され、子連れ客を飽きさせない心配りが。実はその中に、ヨーロッパ滞在中に書いたという貴重なレシピノートが潜んでいる(触る際には一声かけるようにしたい)。



『PEDIBUS JAMBUS』の意味は“せっせと歩こう、いつかは辿り着くから”。

喜んでくれるお客さんのため、自分のため、今日もせっせと、がむしゃらに歩いていく。


「将来の夢? 実はいっぱいあるんですよね〜、どれにしようかな〜(笑い)。

1つはポルトガルに行って、海辺の食堂で魚を焼くおばあちゃんになりたいかな。でも生涯は飽きると思うから…ターシャおばあちゃんみたいに、田舎に住みながら、自給自足のなんでもできるスーパーおばあちゃんにも憧れています。そうそう、絵本作家にもなりたいんです。やっぱりいくつになっても、自分だけの人生の夢って大切ですから!」



PEDIBUS JAMBUS’s ヒトトナリ

プライベートでは中1男子と高2男子のママ。家族の時間を大事にしながらも、「子供が独立した後は私もひとり海外で挑戦するつもり」と笑うパワフルさが魅力。やりたい気持ちがあれば、言い訳せずにまっしぐら。お腹空かせた子はまとめて面倒みちゃる的な、でっかい愛情の持ち主。



PEDIBUS JAMBUS’s オトナリ

ミタケ・オアシン

「ベトナムとかアジア系のご飯も大好き。祐天寺にある友人のお店なんですが、よく食べに行きますよ」


Information

PEDIBUS JAMBUS(ペディビュス ジャンビュス)


ADDRESS 東京都目黒区祐天寺2-15-8

TEL 070-3810-9947

OPENING HOURS 10:00〜17:00(平日)、11:00〜17:00(土日祝)

CLOSED 不定休

RESERVATION 不可(夜のご予約、貸し切りは要相談

※御用の方は16時以降でお願いします。

Instagram @pedibusjambus @naozo755 



Photo:マスモトサヤカ

Text:ツジモトユキジ

Movie:スギウラユウ

Direction:アサイシンイチロウ

(2022/6/12現在)




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